So-net無料ブログ作成
検索選択
その他 ブログトップ
前の5件 | -

迷子のこねこ [その他]


 ぴゅう、と素肌を撫でるように吹いたそよ風がそろそろ寒く感じられる頃だった。
 どこへいくのか、と口々に心配される様はどこぞの令嬢かと思わないでもないが、
 姿形をみれば包帯を眼帯代わりにし、派手な着物を纏い、煙管を片手に堂々と歩く紛うことなき男である。

 にゃぁん。

 肉まんだとかおでんとかが食べたくなってきたな、なんて季節を感じているのか感じていないのか
 不明な事をぼうっと考えていた。
 すると、ある者から見れば可愛い、しかしある者から見れば鬱陶しいという、
 そんな声と仕草で灰色の子猫が足首に擦り寄ってくる。
「なんだ?」
 にゃあっ、と今度は抗議気味の声をあげた。
 それもそのはずで、首の辺りをつまんで持ち上げられているからだ。
 しかしそんな些細な抗議も気に留めず、男は通じるはずもない言葉を一方的に呟いたまま、
 そのままじっと見つめている。

 

「『なんだ』はコイツの台詞だろうよ」
「ヅラ」
「ヅラじゃない、桂だ」
 今日も今日とて真選組と追いかけっこだ。
 くたくたになって家路に着こうと思ったら、この男は一体何をやっているのか。
 見て見ぬ振りを決め込むことだって出来たが、
 そうすると抗議の声をあげている子猫が解放されないということで、それはちょっとだけ寝覚めが悪い。
 珍しく桂はため息をついた。

「どうしたんだ? その猫」
「そこで纏わりついてきたからな」
 引き剥がそうとして無理やり持ち上げたのか。
 そう責めると「ついてこられたら困るだろう」と当然のように返した。
 自分たちの根城についてこられれば、餌にはありつけるかもしれない。
 けれど戦場において、いつどんな事で戦局がひっくり返るか分からないのだ。
 その疑わしき芽は即刻排除する。高杉晋助は、そういう男だった。
 汚れ仕事を一切躊躇わないのに、どこか人を惹きつけてしまう厄介な誘引力を持つ男だ。
 とはいえ、自分が感じる「厄介な誘引力」を持つのが高杉だけだとは限らないのだが、
 桂はそれ以上深く考える事を放棄した。
 厄介な種が増えそうなのと、確実に種になりそうな自分を無意識のうちに遠ざけているからだろう。

 顔面近くにまで持ち上げられていた子猫はいつのまにか地面に下ろされていた。
 いきなり持ち上げられたのが恐ろしかったのか、一目散に通りへとかけていく。
 高杉は面白く無さそうに鼻を鳴らした。


 その光景を見て、桂はある記憶が蘇る。
「高杉・・・・・・覚えてるか?」
「あァ? それこそ何のことだ」
「俺の勘違いでなければ、前にもこういうことがあっただろう」
 可笑しそうに笑う桂に、高杉は視線を合わせずに返した。
「かもなァ。白黒テンパがそっちから歩いてきたなんてこともあったかも知れないが、覚えてねェ」
「きっちり覚えているだろうが」
 昔から、体力馬鹿の銀時や坂本とは彼は違った。雰囲気というか、もっと端的で率直にいえば頭のつくりがだ。

「逃げた子猫を抱いた銀時が丁度曲がってきて・・・・・・それも真っ黒な子猫だ。
 夕暮れ時だったから銀時と妙に様になる対照的な色をしていた」

 汚い野良猫だったので、洗えばもしかしたら色が変わるんじゃないかと洗ってみればがっかりな結果だった。
 どこまでいっても黒で、結局その猫は元から黒猫なのだという理解を更に深めるだけに終わった。
 毛並みが艶々になって、美しくなった事は必然の産物だが。
 さて、この子猫もどうやら迷子のようだ。


「洗ってみるか?」
 といっても今はシャンプーなど手元にないので、
 お湯で体の汚れを洗い落とし、手ぬぐいで拭いてやるくらいしか出来ない。
「・・・・・・驚いたな」
「銀? いや、白か。羊みてえな野郎だ」
「銀時と同じ色か。瞳の色だけは違うが・・・・・・」
 夜叉の名に相応しく、赤みがかかっている目。この猫は青色だった。毛の代わりに瞳だけは反対だった。
「・・・・・・」
 暫らくじっと猫を見つめていたが、気づけばお互い何をやっているんだと思えてきた。
 かたや攘夷志士、かたや今ではテロリストのような人物が子猫を挟んでほのぼのトークを繰り広げている。

 うにゃっ。

 子猫はまた抗議の声をあげた。ふさふさの尻尾を持ち上げたが、爪はまだ仕舞われている。
「おい高杉! そうやって持つなと言っているだろうが」
 高杉は桂のお小言に方眉を上げたが、あえて言い返そうとはせず、ゆっくりと子猫の顔を見、
 そして桂の顔へと視線を戻した。
 こちらを見てくる高杉の視線はどこか頼りなげで、不安そうにも見える。目の錯覚だったかもしれないが。
「こうだ、こう」
 持ち方を示してやると、見よう見まねで高杉も両腕を動かした。
 左手は子猫の脇の辺りをくぐるように、右手は足の辺りを固定するように回される。
「・・・・・・結局飼ってやることにしたのか?」
「世話好きな奴が鬼兵隊の中にもいるんでな」
 ということは、世話を押し付けるのだろう。まあ、子猫が生活できるならそれでいい。
「そうか、名前は銀時かいちご牛乳にでもするといい」
 そのまま高杉は何も続けることなく、挨拶代わりにひらひらと右手を動かした。
 傍若無人で人の話を聞いちゃいないところは互いの、というか知り合い同士の共通点みたいなもので、
 苦笑しながら桂も踵を返す。

 

 そのまま、その子猫は隊の中で「ギン」と呼ばれるようになるのだが、
 毛並みからとって隊員に名付けられた名前なのか、
 桂の言うとおり銀時からとって名付けられた名前なのか、真相は高杉のみ知る。

 

お題提供 Noina Title

 

お知らせ。


nice!(2)  コメント(2) 

忘れてしまった笑い方 [その他]


 キャラ被りという、重大な問題からの脱却。
 その最終決戦とも呼べる、このときに。
 よりにもよって、道に迷うとは。
 エリザベスは一体どこに行った?



「おんしゃ、ほんに飲まれんのう! アッハッハッハッ!」
 夜の闇に、五月蝿いとしか言いようがない笑い声。
 ・・・・・・面倒くさいのに捕まった。
 高杉は、肩にかけられた手を払いのけた。
 夜になってもサングラスを外そうとしない隣の男は、それでもめげずにまた肩を組んでくる。
 足取りがおぼつかないので、本気で酔っているのかもしれない。
 また払いのけて、転んで、そのまま放置してやれば風邪くらい引くだろうか。
 いや、こいつはそんな繊細な奴じゃなかった。
 怒りと諦めを何度繰り返したか。うんざりした高杉はすでに抵抗をやめ、
 時折かけられる体重を支えながら、それでも半ば意地になって真っ直ぐ進んでいく。

 ふと懐に手をやる。
 期待と、不安は打ち砕かれ、微妙な安堵と後悔がない交ぜになる。
 ぽんと買ってしまったのはいいが、一体自分はこれをどうするつもりだったのだろう。
 高杉は、自分の行動を悔やんでいた。
 冷たい風を気にせず、飄々と歩きながらも、悩んでいた。
 そうして歩いているところを、坂本に捕まったのだ。
 強引なところも、話を聞かないところも全く変わらない腐れ縁は、お約束のごとく飲みに誘い、
 当然のごとく酒に飲まれて早くも足元が怪しくなっている。
 高杉は隠れてため息をついた。
 路地に差し掛かると、人影もほとんどなく、雲に隠れてしまった三日月の光だけでは
 到底照らせない向こうから、誰かがいきなり浮かび上がってきたかのように見えた。
「―――ッ!」
「おお?」
「これは失礼した、追われている最中だったものでな。ついつい前を見ずに・・・・・・貴様!」
「・・・・・・何やってんだ、ヅラ」
「ヅラじゃない、ヅラ子だ」
「ん~、ヅラぁ? 珍しいとこで会うたもんじゃ。久しいのう、めでたいのう、アッハッハッ!
 こりゃ、もう飲むしかないが!」
「ヅラ子だと言っているだろうが!」
 あくまでも真面目に。
 そして憤懣やるかたない、といった様子で顔をこわばらせているのは、
 以前、ともに背を合わせて戦えるくらいには信頼した仲間だった男。
 さらには、己の剣とその腕で自分の道を遮ると宣言した男だった。
 ――男だった、はずなのだが。
「お前、女だったか?」
「己の行くべき道を突き詰めていたら、新世界を開拓してな」
「・・・・・・」
「・・・・・・」

 気まずい沈黙が流れた。
 桂は羞恥も恐れもなく、むしろちょっとだけ誇らしげである。
 互いに追われる身であることは先刻承知。
 見るたびに違った格好をし、袈裟で身を覆っていた事もあった。
 いっその事、嘘でも良いから変装だと言ってくれないだろうか。
 何故にスリットが際どいチャイナドレスなぞ着る必要があるのだろう。
 高杉はどうすればいいのか、見なかったことにしていっそのこと走り去っていきたかった。
 けれど、そんな事はおくびにも出さず、無表情に見つめ続ける。
 ゆっくりと紫煙が立ち昇った。
「よう似合うとるぜよ! 折角久しぶりに集まったんじゃ。ほれ、そこの飲み屋でもう一杯と行こうや」
「・・・・・・相変わらずだなァ、辰馬」
「ああ、相変わらずの馬鹿で困る」
 それは手前もだ、と言いかけたが、面倒で口をつぐみながら、飲み屋へと三人向かっていった。


 今は何をしているのか、とか。
 これからどうするつもりなのか、とか。
 エリザベスがどうした、陸奥がこう言ったなどの馬鹿話。
 誰も核心めいたことは何一つ触れず、ぎりぎりの一線を越えないまでの馬鹿話に花を咲かせた。
 高杉はただ一人、二人の話を酒の肴に、ちびちびと飲んでいく。
「まあた食べとらんき。高杉、おんしゃもうちょっと肉つけないかんぜよ」
「貴様、攘夷志士は体が基本なのだぞ。もっと食え。ほら、俺のを分けてやるから」
「いらねえ・・・・・・」
 ぽいぽいと投げ入れてくるのは、野菜か、こってりした肉のおかずか、
 自分たちの嫌いなものばかりだ。
 有難迷惑なその所業に、ぐいと皿をつき返す。
 しかし、その反応は既に予測済みだったらしく、ところで、と桂は続けた。
「ところで、お前たちは何故あんな場所にいたのだ? 二人で待ち合わせでもしていたのか?」
「いやあ? 二人で飲んどったんじゃ。
 そん前は街中歩いちょったら、高杉が一人で寂しそうにしとったき、こりゃいかん思うて飲みに誘ったんろー」
「なんだ。高杉も相変わらずの寂しがりやか」
「手前ェ・・・・・・いつから俺は寂しがりやになってんだよ」
 睨むも、軽く首をすくめただけでへらへら笑っているばかりだった。
 ここらの昔馴染みには脅しも虚勢もききやしない。
「そういやあ、金時はどーしとるがか?」
「銀時か? アイツも相変わらずだ。甘い物を食って寝て、時々馬鹿みたいに暴れておるだけよ」
「ハッハッハッ! ちいとも変わっとらせん!」
 至極楽しそうに、坂本は笑った。
 桂もその顔を見て同じように笑った。
 一人、高杉だけは同じようには笑わないまま。
 あの頃のように、皮肉めいた笑いさえ、出さぬまま。
 出せぬまま、秘密の会合と呼ぶのさえおこがましい、密やかな宴会は終わりを告げる。

「うェぷっ」
「坂本、お前は酒の量を調節して飲めと、何回も言っただろう」
 はしゃいで飲みすぎた坂本を桂が介抱するのも、見慣れた光景だ。
 その横で、さらに飲みすすめる高杉の姿と、もう一人。
 ここにいない銀髪頭が坂本の隣に立って同じように青い顔をしているはずなのを除けば、なんら変わりはない。

 妙にここから離れたくなった。
 元には戻らないあの場への懐古の情か、二人への切っても切れぬ腐れ縁への執着心か、
 決して入る事の出来ない二人から逃げ出したいのか、
 そうして今あるべき場所に逃げ帰りたくなったのかは、分かりたくもなかった。
 くるりと振り返ると、足を踏み出そうとしたが、ちょっと逡巡して懐に手を入れる。
 酒のせいか、さっきよりもほんのり温まっていた。

「ん? おい、高杉!」
「もう帰るがか? おーい、晋助ェ!」
 返事の代わりに、ぽいと包みを落としていった。
 振り返らずに、すたすた夜風を切りながら闇の中へと押し進んでいく。
「高杉、落としたぞ! 何だあいつ、振り返りもしないで・・・・・・何だこれは。縮緬の、巾着袋?」
 振ってみると、しゃらしゃらと何やら擦れる音がする。
「何じゃ、それは」
「高杉が落としていったんだ」
「・・・あー、これはこれは。うんうん、高杉。分かっとるぜよ」
 まるで本人と会話しているかのように、袋を片手に乗せながら、何度も頷いた。
 桂は不思議そうな顔をしながらも、ふと顔を上げた坂本の視線を辿って、遠くへと目をこらす。
「おおーい、晋助ェェェ! 今度会うときは、何ぞ土産ば買うちゃるきに、楽しみにしとくがぜよー!」
「ん? 坂本、もういいのか? というより、お前。こんな深夜に非常識だろう。
 近隣の住民の騒音に対する憎しみといったらそれはもう――」



 ざく、と砂を踏みしめる音が、妙に大きく聞こえた。
「ったく、いつまで経ってもうるせェ連中だ」
 それに比べて、ここは。
 なんて、静かな。
 なんて、声が響く空間なのだろう。



「アッハッハッ、大丈夫大丈夫~、金時なら死にゃあせんきー」
「全く、修理代はお前が持てよ。それっ」

 ドガアン! と、何かが破壊される音で目が覚めた。
「ギャアァァァ! 何、なんなの!? 俺なんかしたー? 銀さん何かしたー?
 俺パフェ食ってただけだよ、今まさに苺パフェにかぶりつこうとしてた真っ最中だったよ!?
 誰だこんなにした奴はァァァ!」
 銀時の声が響くのを確認してから、ぽいと縮緬の巾着と、
 それと同じくらいの大きさの包みを二つ投げ入れてやる。
「これで勘弁してくれろー、金時」
「そろそろ帰るか、坂本」
「そうじゃのう。いいかげん、そのヅラも取ったらいいが」
「これはヅラじゃない。地毛だ」
 長身の二人組は揃って闇に溶け込んで、
 とうとう銀時が破壊された窓穴から頭を出すまでには、既に姿を消してしまった。
「ハッ、少しは気がきくようになったじゃねーの」

 ただ一人。
 焦げ臭い匂いとそれをすぐに押し流す冷たい夜風に吹かれていた銀髪の男は。
 巾着袋の中の金平糖を頬張りながら、誰にともなく片手を上げて、
 今度こそ夢の続きを見れますようにと幸せそうな顔をして固い布団に寝転んだ。


 

お題提供 今失帝国

 

後書き


nice!(5)  コメント(2) 

暗黙の了解 [その他]


 風で戸がカタカタ鳴る。
 時折軋む家。
 こんな風の強い日に、彼は大丈夫なのだろうか。


 攘夷戦争の最中。
 松陽先生の塾生たちや、同志が集まっていたわけだが、坂本、桂、高杉は別格だった。
 剣豪として名高い坂本や人を惹きつける魅力のある桂や高杉は、
 自分についてくる各個人のリーダー的存在であり、
 自然そういう者たちは人くくりにされて、別に一人部屋を貰ったりなんかする。
 そんな三人に、異色の存在が一人。
 坂本を馬鹿と呼び、桂をヅラと呼び、高杉をからかう。
 あの三人にそんなことができる、ただ一人の存在。
 それが『白夜叉』と名高い、坂田銀時。
 素早さ、剣の腕前、なにより思い切りの良さ、それに伴う非情さ。
 戦場でとてつもない働きをしたかと思えば、仲間と楽しげに語らう。
 おまけに滅多にお目にかかれない、あの容姿。
 鬼と見紛うのは、性格や容姿だけではないだろう。
 彼が纏う何か、一生消えることのない血の匂いのせいだろうか。

 しかし、三人にとってそんなことはどうでもよかった。
 異端の存在と呼ばれる彼ではあったが、どうせ自分たちも同じようなものだったからだ。
 志が何処に向いていようが、今ここにいる。
 それだけで相手を殺さずにすむ。
 付いて来ず、道を違ったときには、説得して、それでも駄目ならば斬り捨てる。
 そう割り切れる者ばかりだったから。
 難しい理屈は放っておいて、とにかく馬が合ったから、四人は気が置けない存在になった。

 まあ周りの者たちが四人にどれほど憧れていたとしても、
 銀時が言うとおり、坂本は馬鹿で、桂はヅラで、高杉はどこまで行っても我儘だった。
 そして、彼自身は臆病だったのだ。
 これは血が恐いとか、人を切るのが恐いとか、そういった類のものではなかった。
 高杉に餓鬼と称されたとおり、幽霊の類が恐かったのである。
 その原因は、松陽先生がなかなか寝ようとせずに遊びまわっていた銀時を
 どうにか布団に入れようと、寝物語に幽霊話を散々しただとか、
 桂と高杉がグルになって怪談話を刷り込んだのだとか
 諸説は語られているのだけど、とにかく銀時は恐がりだった。

 それは結構深刻で、墓場や幽霊スポットといった、人目がないところがアジトに最適なのに、
 銀時ときたら頑として受け入れようとはしなかった。
 桂や坂本がどうにか宥めすかして、そこを拠点としても、
 寝付いて夜中に尿意を催してしまったら、一人で厠にいくことさえ躊躇う。
 一度は眠れなかったといって、朝になって真っ青な顔をしながらようやく厠に走ったものだから、
 戦に支障をきたすのではないかと三人それぞれ心配したものだ。
 というわけで、銀時が夜中に目覚めたときには遠慮なく起こせと
 一言言ってから眠るのが、三人の習慣になったわけだ。

 三人同時にいうと迷うだろうから、順番に言っていく。
 そして余裕があるときには、彼が好きな甘いものを土産にしてやる。
 それがいつしか彼らのうちでの暗黙のルールになっていた。
 風が強く、木々がまるで怪物のような影に見えてしまったり、
 鎧が床の間に飾っていたりする怪しげな部屋は極力避け、
 けれど周りにはばれないように自然に気遣ってやる。
 ふと自分たちが何でここまでしなくちゃいけないんだと思うことも、なかったとは言えないのだが、
 銀時自身にもそういう魅力というものが備わっていたのだと片付けるほかない。
 『白夜叉』と恐れ崇められている周りからのプレッシャーを、
 そういう素振りは見せなかったとしても、ひしひしと感じていたはずで、
 彼ら自身も頼りにしていたのだから、それを弁解する気持ちも混じっていたのだろう。


―そこまで考えて、桂は薄く笑いを漏らした。
 そんな柔なヤツじゃないし、それに今では彼らがいるのだ。
 夜兎と呼ばれる、宇宙でも有名な強さを持つ少女に、眼鏡の青年。
 下の階には叩いてくれそうな婆さんまでいる。
 なら、大丈夫だろう。
 銀時はきっと、ぐっすり眠っている。
 明日のためにも、さっさと眠るとしよう。


―そこまで考えて、坂本は薄く笑いを漏らした。
 金時にはそんな可愛いところもあったっけ。
 心が強そうな仲間が集まってくる者は、やはり芯が真っ直ぐなのだろうから。
 なにかを銀時が恐がっても、呆れながら、けれど傍にいてくれる存在がどこかにいるのだろう。
 なら、きっと大丈夫。
 銀時は、腹出して寝てる。
 陸奥が呼ぶ声を聞きとめ、坂本は筆を硯に置いた。


―そこまで考えて、高杉は薄く笑いを漏らした。
 そういえばそんなことがあった。
 厠の外にいる自分を何度も何度も呼び止めて、
 終いには面倒くさくて返事をしなかったら、涙声で怒鳴っていたっけ。
 まあ、今となっちゃ側にいないから分からないが、
 銀時はあのアホ面でまた恐がっているのだろうか。
 さっさと成長しろ、ガキが。
 笑顔に首をかしげた万斉に、何でもないと告げると、また音色を夜空に響かせた。


 

お題提供 Noina Title

後書き


nice!(1)  コメント(0) 

甘いホットミルク [その他]


「あ、テメー。なんでこんなところにいやがる」
「…………」
 その男は無感動な目で。
 昔とちっとも変わっちゃいない、何を考えているのか悟らせない眼差しで俺を貫いた。

 

「おい高杉。テメー、シカトしてんじゃねえよ。銀さん怒っちゃうよ?」
 ぐい、と掴んだ肩は、昔よりもやせて骨ばった感触を伝える。

――……ほっせェ。

 その時点で、何もかもを以前と比べている自分に気づき、自嘲気味に笑う。
「痛ェな……離せ、バカ。アホ面晒して人前歩くんじゃねえよ」
 憎まれ口を叩くのも、全く変わらないときた。
「今日は万斉は?」
「犬じゃねーんだ。いっつも連れ歩くかよ」
「違えねェ」
 そのままなんとなく、話題も途切れてしまう。
 居づらくなって、立ち去ろうかと考え始めたとき。


「お前こそ、ガキどもはどーした。桂は?」
「俺がいっつも桂と一緒にいると思うなよ、って……ああ」
「んだよ?」
 もしかして、こいつの俺に関するイメージは、あの春雨の船の中で止まってるのか。
 いや。こいつのことだから、自分の障害になりそうなモンの情報くらい集めているはずだろうに。

「別に。神楽も新八も、今日は新八の家に先に行ってんだよ。いいって言ってるのに……」
「そーいえば、お前誕生日だったか」
「そーそー。10月10日は銀さんの誕生日なの。忘れてたなお前。
 まあ、お前に覚えてもらっててもしょーがねーけど。なに、何かくれんの」
「何でお前の誕生日を俺が祝わなきゃならねえんだ」
 高杉は微かに眉を寄せて、心底めんどくさそうに頭をかいた。
 羽織るように着た着物の透間から、風邪が入り込むようで、見てるこっちが寒くなってくる。
「あっそ。んじゃ、俺もう行くわ。お前もうろついてっと真選組に捕まンぞ」
 ひらひらと片手を振ると、もう振り返るまいと思った。
 亡霊のように佇む、道を違えた男なんぞ、見たくないと非常にも思っていたのかもしれない。

「おい」
「まだなんか用?」
 しかし、その目論見はあっさり崩される。
 声をかけられれば、そっちを向きたくなるのが人情というもので。
「ほれ」
「何」
プレゼント
「ええ?」
 ぐい、と押し付けられたのは、安売りしてそうな珈琲が入った紙コップだった。
 ほかほかと匂いたつ湯気が暖かく、手にもじんわり温もりが沁みていく。

「って、飲みかけじゃねーかァァアアア!」
「そこで安売りしてたから買ったんだが、飽きた」
「飽きたじゃねえ! 喧嘩売ってんのか」
「んだよ、うっせえな……」
「誰のせいだと思ってんだ! いるかこんなモン!」
 とはいえ、悲しいかな貧乏性。
 貰ったものを飲みかけとはいえ、捨てるのは惜しいようにも思える。
 一口だけ飲むと、やっぱり苦かった。
 しかもひどく熱い。

「にっが」
「当たりめーだ。コーヒーってのは、んなモンだろ」
「俺は甘党なの。お前と違ってブラック派でも、熱いのが好きなわけでもないんだから。いらね」
「俺もいらねーよ。そこら辺に捨てとけ」
 最初からごみ処理目的で、俺に渡したらしい。
 何処までも我儘な野郎だ。
 今度こそ愛想が尽きて背を向けると、また呼び止められた。

「んだよっ」
「これ」
「わっ……」
 ぽい、とどうでもよさそうに放り投げられたそれは、今度は缶だった。
「お前にはこれで十分だろ」
「あんなら最初っから出せよ。……何これ?」
 ラベルにはホットミルク
 いまどき何処で売ってるのかも怪しい、珍しい品物だ。
 目を細めると、思わず笑い出したくなる。
 こいつの前で笑うのもなんか嫌で、抑えていたのだが。
 顔を上げると、すでにあいつはいなかった。
 よくよく探せば見つけられたのかもしれないが、
 遠目に派手な着物が、人ごみに消えたような気がして、それ以上追うのもなんだか気が引けた。


「じゃあな。生きてたらまた会おうや」
 本当は会いたくないのに。
 どこか天邪鬼な自分に、皮肉めいた笑みを浮かべながら。
 いつの間にか人が消え始め、街灯も少ない路地に入る。
 薄っすら家々から見える明かりが、どうにも人寂しい。
 さっさと酒にでもありつこうと、甘い牛乳で寂しい口を潤しながら、足を速めた。

 

お題提供 Noina Title

 

後書き


nice!(3)  コメント(4) 

し 死んでしまったの? [その他]

 むせ返るように充満する鉄の臭い。悲鳴と怒号。
 そんなものに慣れてしまった俺たちが、
 正義などという二文字で称されることは無いのだろう。
「どうして、そこまでして戦う?」
 問われたことがあった。
「さあな。……もう、何にせよ戻れねえよ」
 今更、戦わずにのうのうと暮らすなんてできない。
 元は大義名分だろうが、戦ううちに見失って
 魂が血に汚されて、酔わされて。
 憎しみに犯されて、自傷行為のような無謀な命のやり取りを、
 幾度も繰り返している。
 意味が無いことだと知りながらも、
 むしろ嫌がられることだと分かっていながらも、
 止めてしまったらきっと、悲しみに押しつぶされて二度と動けない。
 そんなことは、とうに分かっていたはずだ。
 死が誰にも訪れ、予測がつかないことくらい。
 分かっていたはずだ。
 別れは涙も出てこなくなるくらいに、悲しいものだって。
 そしてそれは俺にも訪れるのだと、刀を取った時から知っている。


「せんせー、松陽先生ー」
「どうしました?」
「これ……」
 いろは歌を教えてもらっているときに駆け込んできたのは、
 無気力な目をした子どもだった。
 名を銀時。後に白夜叉と呼ばれる男である。
「ああ、野良ですね」
 先生が銀時の腕の中にいる子猫を見て言った。
 痛々しくやせていて、みすぼらしいとしかいいようが無い。
 銀時はかすかに震えている子猫を見て心配になったのだろう。
 いつもは一本調子で淡々としゃべる声が、かすかに震えていた。
「……元気に、なる?」
「きっと。銀時が一生懸命世話してあげたらね」
「するっ」
 ぱあ、と顔をほころばせて庭のほうへと走っていってしまった。
「いいのですか?」
「何がです?」
 逡巡した後に、俺は先生を見上げる。
「ですから、生き物を飼って……飼えると思いますか。これから先」
 方法や、責任感ではない。
 失ったときの悲しみに、彼が耐えられるのだろうか。
「優しいですね。小太郎は」
 先生はそういって儚げに笑うと、それきり何も言わなかった。

 子猫は抱かれるのを嫌がり、一声鳴くと腕からもがいて地へと降り立った。
「名前、何にしたらいーんだ?」
 手をなめて、顔を掃除する様子を見ているだけでも飽きる事がない。
 かなりの愛着を抱いているのだが、経験がないせいか、
 どんな名前を付けてよいのか見当もつかなかった。
「銀時」
「何で俺の名前なんだよ」
「何の話だァ? …どうしたんだ、ソイツ」
 不機嫌そうに眉を上げた、大人びているというか、ひねた子どもは高杉晋助。
 最も過激で危険な男、未来ではそう認識される。
「ああ、コレね。庭先に迷い込んできたとこを拾ったの」
「ふーん」
「ふーんて…晋助ェ、何かいい名前ない?」

 子猫の半ばもつれた長めの毛は、土で汚れて灰色に近い。
 どうにも気になるのか、耳の後ろをしきりに掻いているところを見ると、
 ノミでもいるのかもしれない。
 しかし銀時はそんなことを微塵も考えていないらしく、
 餌をやったり、一緒に寝転んだりと片時も離れなかった。
「おい。ソイツ寝泊りどこでするんだ」
「俺の部屋」
「馬鹿、ノミがうつるぞ。不衛生だろーが」
「冷血漢。外で寝かせろってか」
 機嫌を損ねたらしく、ちらりともこちらを見ようとしない。
 イライラして声を荒げると、微かにびくりとしたのが見えた。
 しまった、とすぐに後悔したが、今更後に引けない。
「だからてめーはパーだ、っつうんだよ。洗やーいいじゃねーか。
 そしたら少しはマシになるだろうよ」
「天然パーマと頭が弱いのを一緒にすんなっ。
 お前にこの苦労が分かってたまるか!」
 言い返すと同時に、ようやくこちらを見返してきた。
 赤みを帯びた銀時の目が興奮したせいで、鮮やかに光っている。
 はた、と考え直し、でも……と呟く。
「そっか。洗ってやろ。そしたらこんな掻かないだろうし。
 おめーも手伝えよ」
「何で俺が」
「言い出したのはお前」
「ったく…………」
 仕方ない。どーせ、こいつ一人じゃ洗いきれないのだ。

「うっわー。綺麗になったな、オイ」
「当たりめーだ、わざわざ俺が手伝ってやったんだから」
 しばらくぶつぶつと言っていたが、結局は手伝っているところ、
 幼少時代は、未来からは考えられないほど素直な一面もあったのかもしれない。
 二人(銀時は要領が分からずに、湯をかけ流していたので、主に高杉)
 の努力の甲斐あって、ふんわりと揺らいでいる毛並みは美しい白色。
 どこか銀時の髪の毛を思い出させる仕上がりだった。
 ちなみに瞳は、吸い込まれるようなスカイブルーである。
「銀時、高杉。名前はもう決めたのか」
「忘れてた。なんかない? ヅラ」
「ヅラじゃない、桂だ」
 見計らったように現れた桂に、銀時は驚く様子もなく返す。
 高杉はいつものやりとりに飽きたのか、面倒くさそうに言い捨てた。
「もうヅラでいいだろ、名前」
「ヅラと同列? かわいそー」
「な、なんだと!? じゃあ、パーだったらいいのか!」
「お前ら、いつかそろって天然パーマの苦しみを味合わせてやる。
 あ~、もうしんちゃんでよくね? 響きもいいじゃん」
 確かに考えること自体を面倒くさがる銀時が、ここまで悩むのも珍しい光景だった。
 いつも寝ているか、ぼうっとどこかを見つめて、
 心ここにあらずの奴が、こんなに長く話しているのも。
 ひそかに感心していると、不意打ちが襲ってくることになる。
「な、テメ! ふざけんな!」
「んだよー」
「いいじゃないか。なー、しん」
「だよなー、しい」
 銀時達にニャア、と答えるように鳴いたのを見て、ますます高杉は声を荒げた。
「却下だ! ほかの名前を付けろ!」
 縁側でぎゃあぎゃあと騒いでいると、かすかに廊下が軋んだ。

「どうしたんだい、何だか楽しそうだね」
「先生! こいつらが……」
「せんせー! 決まった、こいつの名前!」
「"しんすけ"です。通称しんちゃん」
 せんせーは少し驚いたように目を見開かせ、そして笑った。
「おやおや」
「人の名前を勝手に…」
 晋助がなおも言い募ろうとしたが、子猫を抱きあげて、
 さえぎってしまうようにせんせーは、そっと腕の中におろした。
「良かったね、晋助。ほら、しんちゃんを抱いてみてごらん」
「うわっ」
 晋助があわてて抱きなおすと、居心地が悪いのか
 しばらくもぞもぞとしていたけど、やがて落ち着いたようで、ゴロゴロと言い出した。
可愛いねえ」
「はい……」
 無理やり納得させられたように、ぶすっとしていたが、
 しいを抱くとすぐに顔の表情が和らいだ。
「じゃあ皆でしっかり世話するんだよ」
 せんせーは満足したようにうなずき、また用事を片付けに中へ戻っていってしまう。
「しィー、お腹減ってるか」
「晋助、気に入ったんだ。アイツのこと」
「素直じゃないからな、高杉は」
 うにーと鳴くしいをあやしながら、いそいそと去っていく姿を見ると、
 まんざら嫌なわけでもないらしい。


 見つけたのはまたしても銀時だった。
 飼い始めてから一週間後のこと。
 寝床にいないしんを探しに行っていたらしく、
 朝餉の時間だというのに食卓に来ない。
 呆然と骸を眺めている銀時の背中は、はたから見ると泣いているようにも見えた。
「銀時?」
「眠っちゃった」
「銀時……」
 目線の先にはちっとも動くことの無い、しんの姿があった。
 高い塀がそばにあったから、どこからか飛び上がって落ちたのか、
 カラスや鳶にさらわれかけて落ちたのか。
 どちらにせよ、苦しかっただろう。
 口元から一筋たれている赤は、いつものしんにはない色で、
 そんな時でさえ白い毛は残酷なほどに美しかった。
 銀とも見えるようで、それが赤を一層引き立たせている。
 銀時は泣いてはおらず、口元に穏やかな微笑さえ浮かべていた。
 その様子がかえって悲壮感を増す。
「しぃ……」
 何だかんだで可愛がっていた高杉は、内心一番ショックが大きいだろう。
 そんなことは顔に出す奴じゃないが。
 しんの体をゆっくり抱き上げると、まだ温かかった。
 なんと僅かながら、心臓の鼓動まで感じられる。
「お、おい! まだ生きてるぞ!?」
「何?」
「しい! しい!?」
 か細く、今にも消え入りそうな声で、ニャアと返す。
 うっすらと開けたスカイブルーの目が、眩しいくらいに輝いていた。
 生きたいと、そう願う強い目だった。
「し……ッ!?」
 ふ、と炎が揺らめいたかたと思うと、すぐに瞳を閉じてしまう。
 幾ら呼んでも、目を開けることも泣き声を聞くことも、二度と叶わなかった。
 まるで、俺たちが来るのを待っていたように。
 必死に糸が切れないように頑張っていた姿を思い浮かべると、
 どうしようもなくなってしまった。

「せんせぇ……」
 いつの間にか先生が来て、後ろにたたずんでいたらしい。
 それにいち早く気づいた銀時が、震えた声で駆け寄っていった。
「頑張ったんだね。眠らせてあげようか」
 たった一言、そう言うと銀時を優しく抱いた。
 よしよしと頭を撫でてやる。
 人に触れられるのを嫌がっていたはずの銀時は、
 何かもを拒絶するかのように、反対に守るように、
 全く動かなかった。


「何考えてんだ」
「お前がなんと言おうと俺は行く。このまま天人にこの国を壊されていいのか」
「しゃーねェ。どーせやりたいことも無いし、付き合ってやるよ」
「でかか戦になりそうじゃのう」
「俺達の国を取り戻す、ってか」
「てめェにそんな真面目なのは似合わねえよ」
「高杉もそんな偉そうなこと言えねーだろーが。
 俺は喧嘩が好き、それだけだ」
 そう、それでいい。
 何も深く考えるな。誰にも入れ込むな。
 情を移せばそれだけ、別れが辛くなる。
 誰があぜ道に転がっていても、進むしかできない呪いの道は、
 どうしたって逃れることができない。

 戦場で敗けそうになったときには、
 いつもどこからか、か細い鳴き声が聞こえてくるような気がした。
 アイツの目を思い出させる青空を見上げながら、
 戦場を駆け抜ける血を浴びたその姿は、まさしく夜叉。
 一緒に隣で時を翔るのは、アイツと同じ、銀色の毛をした、夜叉だった。

 

お題提供 哀婉

アトガキを読んで下さる方はこちら。


nice!(1)  コメント(0) 
前の5件 | - その他 ブログトップ



この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。

×

この広告は1年以上新しい記事の更新がないブログに表示されております。