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楽園 [long novel(止)]

― いいかい? 手短に話せば、僕が力を抑え込んでいた状態だったんだ。
   ハウエルは・・・少し違うみたいなんだけど。
   物質で抑制力を高めれるからね。
   しかしシャイリーゼの場合はそういうわけにもいかない。
   自分自身の精神力を必要とするんだ。
   それでも君の中に僕が入ったし、君という意志を操る力の持ち主も現れたし・・・
   僕がいけないんだ。刺激が強すぎた。
 
 
走り抜けた森の先。
どうやらそこに三人はいるらしい。なにやら不気味な明るさが漂う空の下。
全身、無数に切り傷を付けたマーズが、「シャイリーゼ」と対峙していた。
二人とも汗もかかず、凍りつくような笑みを浮かべて剣を構えながら睨みあっている。
「やはり・・・お前か」
「ククク、久しぶりだねえ。しばらく出てこないうちに、賑やかになっているじゃないか」
「ああ、彼らは新しく仲間になったんだよ。もちろん、シャイリーゼの仲間でもある」
「こいつの? 随分と甘くなったもんだねっ!」
言い終わるのが早いか、マーズへ向けている剣を素早く動かす。
だが、切り裂いたのはマーズではなく空気のみだった。
「・・・言わなかったか? 俺は参謀であり、『記録者』だ。お前の太刀筋は読める」
「分かった。こちらもそろそろ時間切れのようだしねえ。今のところは見逃しておいてやる・・・・・・」
そういって「シャイリーゼ」はゆっくりと目を閉じた。

ほんの数秒が経ち、カクリと崩れ落ちるシャイリーゼの身体をマーウィンは受け止めながら聞いた。
「何とか、無事だったようだね。怪我は・・・大丈夫かい? マーズ」
「大丈夫だ。・・・そっちこそ、スティンを無事に取り戻してくれたようだな」
「ああ。君も、大丈夫だった? スティン」
「何がだ?」
意外だという顔をして、こちらを見る二人を見返すスティン。
「何言ってるんだ。自分の力を解放しようかどうしようか迷っていただろ。
今はやめにしたらしいがな。・・・・・・彼方のことくらい、分かっています」
気を失っているシャイリーゼを、マーウィンと一緒に抱えながら目線を合わせずに言う。言いにくいといった雰囲気のマーズに、遠い過去に思いをはせ、微笑み返した。

「行くぞ。ハウエルとエンデはどうしたんだ」
「ああ、あの二人なら・・・」
「こっちこっちー!」
「「なっ・・・!?」」
「エンデ・・・何もそこまでしなくても」
スティンとマーウィンが驚くのも無理はない。
何しろ気絶して、猿轡をかまされているハウエルを軽々と肩に担ぎ、いつもの笑顔で草むらから登場したからだ。
「だってー。いきなり気がついちゃったから、大人しくさせとけってマーズが言ったんじゃないか」
だから、手刀で気絶させておいたよ。
そう明るく言うエンデに、マーウィンとスティンは一抹の不安を覚えた。

「エンデ、意外に力が強いんだな」
「ああ・・・怒らせたときにはひどい目に遭った」
「怒らせたのかい?」
「・・・・・・前、ちょっとな」
「シャイリーゼと、どちらがいい勝負かな」
「シャイリーゼなんかまだいいほうだ。マーズなんかさらに輪をかけて恐ろしいぞ」
「・・・・・・・・・なんか、スティンもいろいろあったんだね」
今気絶している者達の方が幸せなのではないかと、
ひたすらに現実逃避をしていた二人だった。
 
 
― それでも、僕らは永遠に仲間だ。
  共にいるべき者。共に歩める者。
  いつまでも繋がって、いつまでもいっしょ。
  全員そろっている、それだけでここはパラダイス。

お題 by 甘味処


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浮かんでくる景色は、希望の道を絶たれたかのよう [long novel(止)]

「・・・・・・・・・・・・」
「まだ、見えないか?」
「そうだね・・・。いや、断片的に見えるんだけどさ」

歩きながら、いやすでに走りながら平然とした顔で話し始める二人。
戸惑いを一瞬見せたが、共にいるはずの者達が居ない状況と、
自分らしくない焦りの色を見て取ったのか、スティンはこちらの事情をある程度察したらしい。
事情を詳しく聞こうとはせず、探そうとしてくれた。それが今は助かる。
マーウィン自体、余裕がある時ではないのだ。
自分がスティンへ入っていった時、ハウエルは眠っていたはず。
マーウィンの影響を受けている時には、無理に起こしてはいけない。
影響を受けているかどうかは分からないが、自分で起きるのを待つしかなかった。
それなのに、ハウエルがいないということは覚醒したのか・・・?
それとも、シャイリーゼの方か。
いわば自分達は世界の中の『異端児』。
力は使い方が悪ければ反発し、良ければ合わさることや、打ち消しあって抑制することも出来る。
その力が、マーウィンがいなくなったことでバランスが崩れるかもしれない。
力は時に自分をも蝕む。
だから『中』へ入っていくときにそう心配したのだが、その余裕も無かった。
何せスティンがこの状況になったのは恐らく初めてだからだ。
一刻も早くマーウィンが入らないことには、安心できないのだ。

精神面で一番弱いのはシャイリーゼ。
自分を責める傾向にあるシャイリーゼは押し込まれ、操られる可能性が高い。
操られるというのが正しいのか、本人の最深部というのが正しいのかは分からないが。
ハウエルはこの前の戦いで、普段なら抑えられていた力を放出した。
多分それは、目の前でシャイリーゼが傷付けられたためであろう。
一度放出したからといって、力が出にくいというわけではないが、
この状況からすればシャイリーゼに何か異変が起こったためと考えられるようだ。
先と過去を見ることが出来るマーウィン。
その脳裏には先ほど起きた空気の記憶の断片が読み込まれ、映し出されていた。
もちろん、スティンの友であり自分の友にもなったマーズとエンデにも、
影響を及ぼしたと十分に考えられるが、脳裏には先ほどから長剣をマーズに、
短剣をエンデに突きつけたシャイリーゼの姿がまざまざと浮かんでいたのだ。
しかもそこには、いつもとは比べ物にならないほど冷たい嘲笑が浮かんでいた。
「・・・・・・ッ!!」
マーウィンはその姿を振り払うかのように首を振ると、走り続けた。


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歩みは不安をかきたて、やがて失意に変わることを望んでいるのか [long novel(止)]

二人は未だ歩いていた。
二人の名は、背が高い方がスティン、背が低い方がマーウィンという。
どちらも普通の者とは違う雰囲気を持っているが、今は一層緊張した雰囲気で歩き続けている。
実はこの二人にはそれぞれ仲間が居たわけで、
最近その者たちも共に、一緒に旅に同行することになった。

いつの間にか薄っすらと汗ばんできたことにさえ気付かない。
彼らの仲間が危機に面している可能性が高くなっていた。
事実、そこにいるはずの仲間達はおらず、どこかへ消えてしまっている。
何か嫌な予感が浮かび上がり、マーウィンは彼らしくなく焦っていた。
普通の者なら、ただ用事があるかもしれないというだけで済ませられるかもしれない。
ただ、二人の仲間は、いわゆる一般人とは違う者たちだ。
何が起こったのか、予想がつきにくい。
それでもマーウィンは、恐れていた事態が起こったのではないかと内心冷や汗をかきつつ、
こちらに行ったのではないかという見当だけで歩き続けていた。
とはいえ、焦りすぎも良くないのだが、いつの間にか小走りになっていた。

自分がスティンの中に入った時刻は恐らく丑三つ時。今はどのくらいだろう。
午前五時くらいか。まだ季節は厳しく、頬に当たる風も優しいものではない。
だが、ここら辺は日の出が早いらしく、日の光が彼らをぼんやりと映し出していた。
薄暗い中、スティンの碧色の瞳は濃い深緑になっていた。
その瞳が光っていたように見えるのは、ただの光の加減のせいだったろうか。


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目指す方向へ、望むものはあるのか [long novel(止)]

「ねえ」
「なんだ」
「よくさ。本とか、童話とかでは、一人の人間が世界を変える力を持っているとか・・・・・・。
 あるだろう?」
「ああ」
「だけど、僕思っていたんだ。そんな人がいたのなら、実際はどう扱われるんだろう。
 どう感じたんだろう。大きな力に、人々は恐れやしなかったんだろうか、とか。
 たった一人に世界を任せるなんて、そして世界を変えようと思うなんて、
 なんて厚かましいんだろうってね。とにかく、いろいろ」
「・・・・・・そうか」

二人の青年が歩いていた。
先ほどから一言で受け答えをする、無愛想な男。
そのせいで綺麗な碧色の瞳は、冷たい光を放っているかのようだ。
太っているわけではなく、少々ほっそりした体型だが、肩幅は広くとても背が高い。
黒に近いが、少し色あせたような色をしている髪は、
歩くたびに光の加減で茶にも灰色にも見えるから不思議だ。
低い位置で結った髪は、腰に届きそうなほど長く、その腰には長剣が装備されている。
もう一人。
背は同年代の男子と比べると低めで、実際もう一人の青年と比べれば、
肩より低い位の背丈か。
声変わりはしているようだが、性別を考えれば少々高めの声。
ただ、黒い瞳だけはしっかりとした志があることを示し、力強い輝きを放っていた。
また同じく黒い髪は首筋に垂れ、どことなく鬱陶しそうだが、
それさえも彼の魅力を引き出している。
中央で分けられた、長く伸びた前髪は目の横に垂れており、歩くたびに印象が変わっていく。
少々細身で、華奢に見える彼の腰には、もう一人の青年のように長剣が下がっていた。
風を切るように、早足で歩く彼らは一体何を目指しているのか。
そのことを知るには、数刻前に遡る必要がある。


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第二章 - 目覚め [long novel(止)]

突き抜ける、あのさん然とした煌き。
あの輝きはいつまでも忘れることの出来ない、強烈な印象をもたらした。
包まれた光の中で“ワタシ”が暴れ始める。
私も出たい、私も放り捨てて飛び出してしまいたい。
目まぐるしく変わっていく周りに、ついていけずに。
このままでは、爆発する。
途切れ行く意識をかろうじて繋ぎ止めながら、助けを呼んだ。
それでも、まだ時は来ない。
時は許してくれない。
“ワタシ”が目覚める・・・・・・
“私”は、今度は消えずにいられるのだろうか。


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