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それ以上叩くと壊れます。 [自作小説]

(最終話)

「帰る」
「え?」
「家に、帰る」
 碓井は初めて動揺した顔を見せた。

「何で? あ、出来が悪いとか言ったから? あれは冗談だよ、別に・・・」
「で、また帰ってくる」
「はあ?」
 何がなんやら、という顔にも初対面だった。
「滝本守之助。それが今の組長の名で、俺の父親の名だ。
 俺はこれを捨てる。一文無しの宿無しになる。赤の他人の俺を、また拾ってくれないか?」
「拾う予約・・・って、何だいそれ。
 第一、親父さんを早々簡単に捨てちゃいけないよ。そんな人生決めるような大事・・・」
「捨てる。拾ってくれ」
「聞いちゃいないね、君」
 はあ、と呆れたように俯く。
「偶然落ちていたらね。何か拾うかもしれないよ。私は気まぐれだから分からないけれど」
「そうか。じゃ」
 またとも言わず、思い立ったが吉日で出て行った。
 碓井も引き止めなかった。いつの間にか居ついて、あっさり去っていく。
 そんな野良猫のような暮らしがぴったりだと自嘲しながら、
 俺は未だアスファルトの照り返しが目に触る昼の道を歩いていった。


 その後。
 俺は親父に、これから一切家とは関わらない旨を告げた後、頭を下げた。その前に学校に行かせてくれ。
 高校一年ですでに留年という華々しい記録を再度更新するかに見えたが、
 何とか中退せずに二年へと上がる。
 その間に悪い仲間とも縁を切った。ちょっと苦労したが、ここでする話でもない。
 無事に大学へ入ることにも成功した。金は自分で真っ当に稼いで、授業料は捻出することができた。
 入学と同時に家を出て、俺はある場所へ倒れこむように座り込んだ。
 だらりと寄りかかったせいで、セットした黒髪がくしゃりと崩れる。
 どうでも良くて目を瞑ると、ひんやりとした風が漂ってきた。

「折角決めているのに、台無しだね?」
「いいだろ、別に」
「家にはヘアクリームなんて置いてないんだよ」
「・・・・・・お前一応女だろ」
「なんだかいつかも似た台詞を聞いた気がするな・・・・・・」
「いつかも似た台詞を言った気がするよ」
 目を開けると、思い描いていた顔が逆さに覗きこんでいた。
「ちょっと大きくなったかな? いいね、男の子は。すくすく伸びていくんだから羨ましいよ。
 天袋にも手が届くかもしれないね」
「・・・・・・単なる脚立程度にしか見てねえだろ、それ」
 碓井はあの時とまったく変わらず、くすりと笑った。
「拗ねない拗ねない。・・・・・・また青臭い悩みで飛び出してきたのかい?」
「親父とは縁を切った」
「・・・有言実行の男だね、君は」
 碓井は呆れたように、そして少し不安そうに目を泳がせる。

「なら、ついてくるかい? 何か食べたいものでもある?」
「かつお梅を入れた握り飯と、味噌汁」
「・・・・・・」
「お前が黙るなんて、天変地異の前触れだな」
 碓井は息を吹き返し、ちょっと赤くなりながら言った。
「昭和の告白みたいで驚いたんだよ。
 ・・・それにしても随分と安上がりだね? そんなんじゃ栄養が取れないよ」
 私だって少しはレパートリーを増やしたんだよ、と碓井は口を尖らせた。
「なら、ずっと食べさせてくれよ。お前の料理」
「・・・・・・古いね。今は最上階のレストランでワインを飲みながらプロポーズする時代だよ」
「その情報も多分古い」
 まあ、古くたっていいんじゃないかと思うけど。わざわざ言ってやることもない。
 碓井は益々目を泳がせて、動揺した。
 俺がここで告白するとは思わなかったのだろう。いつまで経っても弟のままと思うな。
 そう言ってやると、碓井は心外だというように反論する。
「背も高くなって、日に焼けて、髪も短くなって。立派な男性になったじゃないか。・・・・・・弟とは思ってないよ」

 そういえば、あの時とは容姿が随分と変わったんだったな。
 碓井が後に続けた言葉も、もちろんちゃんと聞いていたが、
 照れくささがどうにも伝染して、あえてそこには触れない。
「俺だってよく気づいたな?」
「そりゃあ・・・こんなとこに座ってるんだから」
 後姿は似てたし、間近で見たら顔がそうだったし、とぼそぼそと言う碓井は、
 全く碓井らしくなかったが、それはそれでいいように思えた。
 大体本人という確証を得ないまま、見知らぬ他人に近寄っていく無謀さは相変わらずで、
 全く碓井らしいといえるのだ。

「なあ」
 肩に手をかけると、びくっと体を揺らした。
 前もそういえばそうだった。過去に起因するのか、碓井は体に触れられると極端に驚く。
「俺と結婚してくれ。・・・つってもまだ学生だけど」
「そういえば、君何歳?」
「19」
「私は26なんだけど。・・・・・・やばいかもなあ。青少年健全育成」
「俺の家のほうがやばいだろうが。それも含めて考えて、結婚してくれ。
 家からは口出しさせない。けれどまだ稼げないからヒモみたくなるけど、将来は真っ当に稼ぐから」
 どうトチ狂ってプロポーズなぞしてるのか、自分にも謎だった。
 この若さで結婚したら苦労するのは目に見えているのだ。誰にも祝福されない事も。
 あの一週間だけの付き合いだった。
 しかもただ普通に話して、飯食って、ゆるい紐と共に眠った、
 恋愛じみた会話も行為も一切無かったのにやっぱり、この数年間思い出していたのはこいつだけだ。
 全く、どうしちまったんだか。
「ゆとり教育世代が、ここまでアツクなる時って貴重なんだぞ」
「生憎、私もその世代らしいんだけどね」
 やっぱりどうも真面目な方向に行かずに、脱線してしまう。
 男が女にがっしりと手をかけて説得している姿に、何事かと視線を送る通行人に目もくれず、
 これでも一世一代の大勝負の真っ最中だというのにだ。どうにも緊張感があるようでなかった。


「お前が好きだ。だから結婚してくれ、智美」
 名前はずるいだろう・・・と囁いたのには聞こえなかった振りをした。
 本当は会えたら開口一番にこう言うつもりだったのだ。
 予定が随分と狂ったが、きちんと言えたから結果オーライっつうことで。
「返事が聞きたい」
 せっかちだと思いながらも、智美? と駄目押しをしてみる。
「そ・・・」
「そ?」
「・・・・・・それ以上叩くと、壊れます」


 気づけば真っ赤になった顔を俯かせながら、黙ったまま。
 暫し間を置いて、なんか怖いから、結婚するまでは紐を外さないからなと言われて首をかしげた。
 しばらく考えて、ああ寝る時の事かとようやく気づく。
 今度こそぎゅっと縛っておけよ、と言ってやると、勿論だ、一応女だからなと返される。
 なんだか色々変なカップルだなあと思いながらも、
 で、拾ってくれる? と囁いてやると、仕方ないという顔をされた。


「おかえり、総一君」
「ただいま」


 ねえ君、意外と人生楽しいもんだろ?
 聞いてきた智美の顔を見る前に、同じ表情をしてみせた。
 にやり笑うのを共に確認すると、軽くふきだす。
 幸せか?
 そう聞いた俺の顔を見る前に、幸せだよと即答した後、羊羹が無いけどねと冗談めかして笑われる。
 笑顔が絶えない家庭になればいいなと、やっぱり漠然と考えた俺だった。

 

お題提供 月と戯れる猫

 


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胸元にのこる傷痕はまだ消えない [自作小説]

(7話目/8話)

「・・・・・・何してんだ?」
「いや。体を舐めまわすように見てたから、ちょっと危ないかと思って」
「その用心深さをあの日に発揮しろよ・・・」
 縄でぐるぐる巻きにされた手首は、やっぱり軽くしか縛られていなかった。


 飄々としているように見えて、どこか危うい雰囲気にこの時の俺が気づいていたのか、今でも自信はない。
 けれど何かがこの話を素通りさせてはいけないような気にさせた。
「そんなことより、マジか?」
「何が? それより『そんなこと』で済ませてしまえるってことは、これ結構お気に入りなのかい?」
 これ、と言い縄をふりふりさせる。
 俺がSMの趣味でもあるっていいたいのか。
「んなわけあるかっ」
「そこで律儀に答えてくれるっていうのが、君のいいところだよね」
 よいしょ、とそこらに散らばっていた洗濯物を洗濯機に収め、洗剤を目分量でさらさらと流し込んだ。
 ゴトゴトと音を立て始めた洗濯機の前で、案外新しい道が開けるかもしれないよ? と聞こえてきた言葉に、
 まだSMを引っ張るのかと無言のまま白い目で見ると、冗談だとすぐさま訂正される。
「・・・・・・小さい頃にね。ちょっと」
「ちょっと?」
 ここで大人ならば空気を察して話を切り上げるべきなのかもしれない。
 けれど俺は話をやめたくない程度には、碓井に興味があったらしい。
 話をやめようとしない俺に、出来の悪い生徒に懇切丁寧に教える教師のような顔で、碓井は苦笑した。

「私が・・・そうだね。小学校に入るか入らないかくらいに両親が借金を背負ってしまったんだ。
 連帯保証人ってヤツだよ。財産放棄できないように圧力欠けられてるし、
 組に対抗できるお金も力も心の強さも無かった両親は・・・」
「自ら?」
「いいや。諦めが悪かったんだね。父親はいわゆる過労死。母もその類で体を壊して衰弱死ってところかな」
 何もいえなかった。
 だって、自分はそんな風にして巻き上げた組の金で生きてきたうちの一人だ。
 自分でしたわけじゃないとはいえ。
 そうやって開き直っていい問題かは、どうともいえなかった。碓井の立場からは、許そうとは思えないだろう。
「だから、両親の記憶は殆ど残っていないんだ。
 親類の家に一時世話になったけど、すぐに施設に入ったから、頭の回転がついていかなかったんだろうね」

 まるで他人事のようだった。
 しかしその口ぶりで何となく分かった気がした。こいつのこの性格は一種の処世術なのだろう。
 どこか斜に構えて、物事が通り過ぎるのを待っているような、
 全てを見ているだけで済ますような、そんな雰囲気がある。
 でも、それでいうなら俺はどうなる?
 いかにも過去を思い出させそうな傷だらけの俺に、包帯を差し延べた、こいつの行動は一体なんだ?
 俺は知らず知らずのうちに言葉に出してしまってたらしい。
「私は、きっと仲間がほしかったんだろうね」
 その言葉が切欠のように、目の前にある機械からピーとエラー音がなった。

「ああ、まただ」
「・・・・・・何事?」
「これね、すぐフィルターが詰まるんだよ。
 ランプが付くんだけど、それで動きが止まるくせに、外して確認してみたら
 そんなに糸くずとかがついてなかったりして、面倒なんだよね」
「わざとか疑いたくなるな・・・」
「何がだい?」
「いや、別に・・・」
 じんわりと出てくる汗を拭いながら、俺は先を促した。
「それで?」
「ん?」
 未だ残暑残る部屋で、扇風機を回したまま熱い茶を飲むという。
 どういうことかなんとも奇妙な構図で、俺たちは向かい合っていた。
「仲間って、どういうことだ?」
「ああ、それね」
「それだ」
 碓井はふう、と溜息のような、茶を冷ますような息を吐き出すと、ゆっくり唇を湿らせた。
「私はね。ずっと兄弟が、欲しかったんだ。
 もちろん施設にいたから皆兄弟ではあったんだけど、やっぱり、違うだろう?」
 言っちゃ悪いが、他人だ。いくら心を許せる相手であろうと。
「喧嘩して、世話焼いて。兄か姉か友達か、親代わりになるか・・・自分の中で変なこだわりがあってね。
 ようするにいずれ離れていくのだという諦めが、ずっと捨てきれなかったんだよ」
「それは・・・」

 当たり前だ、と言いかけて、俺が言うべきことではないと判断した。
 それくらいの空気は読めるつもりだった。
「でもね。最近ようやく慣れてきたんだ。別れとか、出逢いとか、人というものにね」
 社会の世知辛さってヤツもね、と陰りを帯びた顔をする。
どうにもフォローし難く感じていると、なんちゃってと舌を出されてしまった。
「そうしたら、余裕が出来た。そうしたら今度はまた寂しくなった。
 物理的でもいいし、精神的でもいい。傍にいてくれる人が欲しいなって。
 そうしたら、ぼろぼろの君が座り込んでた。
 びっくりしたけど、出来の悪い弟を見つけたみたいで嬉しかったな」
「出来が悪くて悪かったな」
 碓井はくすっと笑った。
「馬鹿にしたわけじゃないんだけど。そうやって憎まれ口を叩くところも、やっぱり似てるよ」
 波長が合うっていうのかな、そう言って碓井は嬉しそうに茶菓子の羊羹をかじった。
「やる」
「ええ?」
「羊羹。俺甘いの好きじゃねえんだよ」
「・・・そうなの? じゃあ、遠慮なく」
 まぐ、と頬張る姿は小動物に見えた。
 頭を振って思考を戻し、聞きたかった疑問をようやく口にする。

「なら、お前は今幸せか?」
「幸せだよ」
 即答だった。
 これが羊羹を食べていたために発せられた反射解答だとは、知る由もなかったが。
 嬉しい事があるたびに、『幸せ』。支えにするように頻繁に口にしてきたのだと、後から知ることになる。
「たかが知れてるOLの給料でも? 食い扶持が一人増えた、今の状況でも?」
「ああ、そういうこと・・・うん、そうだね。ねえ、君。
 私は君よりも人生経験が長いから、言う権利はあると思うんだ。だから言うんだけど・・・」

 意外と人生、楽しいもんだよ。
 碓井はお馴染みのようにニヤリと笑った。
 多分、俺はこの表情を含めた光景を一生忘れないだろうな、なんて。漠然と思ったのだった。

 

 

お題提供 月と戯れる猫

 


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結局、認めたくなかっただけなんだ [自作小説]

(6話目/8話)

 

「帰りたくなったら好きな時に帰るといい。おにぎりと味噌汁でも構わないんだったら出してあげるよ」
 碓井は腕組みをしながらそう言った。さして特別でもない事務報告をするような気軽さで。
 しかし三食それで済ませるつもりなのだろうか。・・・・・・本気か?
 メニューの真実と、宿泊の意を問うその言葉を発してはみたが、碓井は微笑するだけで何も言わなかった。
 まあ、行くトコもないしな。
「いい子にしてたら、ご褒美にお肉を入れてあげる」
 ・・・・・・よし頑張ろうっ、なんて思うか! んな安い理由挙げたらどうにかして悪ぶりたくなるだろーが。
 疲れるからやらんけど。
 そう思ったのが一週間くらい前のこと。


「さて、今日は日曜日だ」
「そうだな」
「ということはこの溜まった洗濯物を片付けねばなるまい! 散らかっている部屋の掃除もね!
 本音を言うと非常に面倒臭い!」
「洗え! お前女だろ一応!?」
 碓井はぽかんと口を開けるとそれから笑った。
「なんだかいつかも似た台詞を聞いた気がするな・・・・・・」
「いつかも似た台詞を言った気がする。洗え、匂わないうちに」
「はいはい。ならそこの籠持って来てくれる? 運ぶのと干すのが面倒なんだよね。
 洗うのは洗濯機がしてくれるから楽なんだけど」
 何もかも面倒なんじゃないか、とげっそりしながら俺は思わず呟く。
「洗濯板の時代を見習え・・・」
「古いね。今は乾燥機までついてる時代だよ」
 気にも留めてない余裕の返事が返ってきただけだった。

「乾燥機はついてないのか?」
「それ使うとお金かかるんだよね。折角日が差してる時に洗うんだから、有効利用しない手はない」
「物臭な上にケチか。ケチだったら物臭になれないんじゃないのか?」
「なんだい、その理屈。ケチケチしようと思ったら幾らでもなれるんだよ。
 手間をかけない究極のケチケチがおにぎりと味噌汁なんじゃないか」
「威張って言うことか・・・」
 大人になるとね、いろいろ考えなきゃいけないんだよ。またさらに面倒臭い事にね、と碓井は漏らした。
 将来頭使わずにボケそうだなと言ってやれば、そうかもねと否定すら面倒臭がる始末だ。

「そういえば、君の親父さんはどんな人なんだい?
 厳格なガミガミ痩せぎすタイプ? 脂ぎっている中年タイプ?」
「・・・何なんだそのイメージ」
「年頃の男の子が嫌がりそうなイメージ」
「それ、男か? 女が嫌がりそうなじゃなく?」
 確かに野郎も疎ましがりそうだが。
「ガミガミもギトギトも、誰しもなりたくないものだよね」
「将来予想図か・・・・・・俺の親父はどちらでもないが。どちらかといえばガミガミしてる方かなあ」
「髪は薄いかい?」
「興味のポイント違くね? ・・・少なくは無い、今のところ」
「じゃあ将来安心だね。まあ薄くなるのは自然なことだから、別に気にしなくてもいいとは思うけどねっ」
 お前が気にし始めたんだろうが。
「それで? ガミガミ口煩いからつい言い返しちゃって大喧嘩で、帰りにくいとか?
 それか、親父さんの足がクサイから堪りかねて家出とかかな?」
「・・・・・・気が抜ける理由だな、それ。そんなんじゃねーよ」
「お母さんは間に立ってくれないのかい?」
「死んだ。小さい頃にな」
 碓井の瞳が僅かに揺れた。

「そうか・・・思い出させてすまないね。優しいお母さんだったのかな。
 美味しいご飯をきっちり三食とるように、躾けられたんだね」
「よく覚えてねえけどな」
「じゃあ親父さんも、お母さんがいなくなったから、寂しくて君に口出ししてくるのかもしれないね」
「はあ? 大体アイツはお袋は今夜が峠だって言われた夜も、
 臨終の時も、仕事で来ようとしなかったんだぞ?」
 碓井は悲しそうに目を細める。
「私も社会人だからね、分かるかもしれない。
 外せない大仕事が待ち受けていたのかもしれないし、
 悲しんでいる姿を誰にも見られたくなかったのかもしれない。
 ・・・でも、きっと後悔しているんじゃないかな」
「・・・・・・」
 部屋に入った時に、慌てて伏せる写真立てに飾られている人物が誰なのか、本当は知っている。
「はっ、んなわけねーだろ。格好ワリ」
「格好悪いもんだよ、大人なんて。
 仕事するようになってちょっと我慢強くなって、外面よくなったけど、中身はちっとも変わってくれない。
 大人に憧れ抱くのも、やっぱり気持ち分かるけどね」
 完全無敵のスーパーヒーローには、どうしたってなれないもんだね、と碓井は
 ソファに頭をぶつけるようにして溜息をついた。

 ヒーローでいろとは言わない。完全でないことも分かってるつもりだ。
 もしかしたら悲しんでいたのかもしれないさ、今になって思えば。
 けれど、家族をあまりにも無視しすぎる親父には、どうひっくり返そうが納得できなかった。
「・・・堅気だったら、それで済むんだろうけどな。組の仕事でまともなのがあってたまるか」
「組? もしかして君の親父さんって刺青背負った職業?」
「ああ・・・怖いか?」
 碓井は驚いたように間を開けて、また笑った。あの夜に見た、不敵な笑みだ。
「どうだろうね。私も組に関係があるといえばあるからね」
 俺は今度こそ驚いて、しばらく言葉が見つからなかった。

 

 

お題提供 月と戯れる猫

 


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強さだけを求めた。何が悪い? [自作小説]

(5話目/8話)

 

「あーあ、よく寝た。さて、今日は何をしようか・・・」
「おい、その前にこれを外しやがれ」
「あ、いたのかい? というかその状態なら自分でも解けるんじゃないのかな」
「解けたらっ、まずいだろうが!」
 一々了解を得て行動するのも癪だが、後々厄介な事を言い出されでもしたら、たまったもんじゃねぇからな。
 女・・・碓井だったか、そいつはもう一つ大きな欠伸をすると、
 じゃあこれを外したら何をしようかね、などと寝ぼけ眼でのたのた近寄ってきた。


「朝ごはん作るの面倒だなあ」
「・・・もう昼近いけどな」
「私が起きた時から始まりなんだよ。ということは始まり、イコール朝だろう」
 いや、違うと思う。
 しかし、そこで反論するとややこしい屁理屈が返ってきそうなのでやめた。
 我ながら賢明な判断だと思う。
「よし、やっぱりご飯は大事だよね。インスタントでいいかい?」
「・・・何でも」
「そう? なら良かった。おにぎりと味噌汁でいいかな。休みはいつも手抜きなんだ。
 いや、仕事の時もだけど」
 たまにかな、自分に豪勢な食事を作るって。
 苦笑しながらガスコンロのスイッチを入れた。
 保温していたらしい炊飯器から白飯を取り出すと、サランラップに包んで手のひらに置く。
 ・・・ラップって、餓鬼みたいだな。
「おかかと、梅干し。あ、梅干し大丈夫? 食べられるかい?」
「なめんな。食べられるに決まってんだろ」
「健康的だね。その分じゃ子どもの頃、毎朝ラジオ体操してたクチだろう」
「・・・・・・」
「こりゃ失敬」
 くくっと小さく笑い、あっという間に握り飯を作ってしまうと、
 沸騰までは至っていないお湯に粉末のいりこだしを入れる。
「「あ」」
 こんなに大量の出汁入れやがって。寝ぼけてんじゃねえだろうな?
 そんな気持ちで横目で見れば、碓井は乾いた笑いを漏らした。
「大丈夫。ダシは幾ら入れても美味しい。それは経験済みだ。保証する」
「つまり、何回もダシを入れすぎていると」
「朝はね、手が滑るんだよ。カルシウムに飢えてるからね」
「どういう理屈だ・・・」

 味噌を溶いて、ネギと油揚げを入れて、仕上げに乾燥ワカメを投じれば立派な味噌汁。
 豆腐が足りないが、まあそこはご愛嬌。ようするに眠気と無精が豆腐の存在を見事打ち消してみせた。
「お前なあ、沸騰寸前だったぞ。味噌汁は煮立ったら不味いんだろ?」
「おや、よく知ってるね。でも君はちょっと残念な味の味噌汁と、
 社会的に重要なニュースを知る機会であれば、どちらを取るべきだと思う?」
「ニュースで腹が膨れるか。おれは上手いモンを食べたい」
 っていうか、お前がニュースを見なけりゃ残念な味にはならないんだよ。
「やれやれ、口煩いことだね。しかし、美味しいものを食べたいという欲求はいいことだと思うよ。
 将来料理をしたいと思うようになるかもしれないし。喧嘩するよりはそのほうがずっと健康的だ」
「・・・・・・」
「さあ、そっちが君の分。ああ、そっちじゃなくてソファで食べよう。なあに、こぼしはしないよ。
 そのために紙コップに入れたんだからね」

 物臭もここに極まれり。
 握り飯を置いた皿と、味噌汁が入った紙コップを持ってソファに陣取る。
 テレビのリモコンを操作し、映画を流し始めた。
「これ昨日借りてきたんだけど、明日には返さないといけないんだよね。
 そこでぼーっとするつもりなら、一緒に見るといい。ポップコーンは品切れだけど、どうぞお席へ」
 すっかりペースに巻き込まれているのが分かったが、逆らう理由もなく。
 珍しく大人の意見に従う自分に自分で驚きながらも、大人しく味噌汁をすすったのだった。
 しょっぱすぎた。

「そういえば、なんで昨日は喧嘩してたんだい? 何かの修行中?」
「はぁ? どういう思考してそうなんだ? 単にあいつらが気に食わないの」
「そんでちょっかいだして追いかけられて、最終的には殴られっぱなしになるんだろ?」
 むっとすると、酷い顔してるよと淡々と返された。淡々としすぎていて腹がたたない。何故だ。
「俺だって殴り返したさ。殴られっぱなしじゃねえ」
「別に殴らなくてもいいと思うんだ。勝負に命をかけてると、さらに気持ちが荒んできそうじゃないか。
 例えば速く走れるとか、早く計算が出来るとか、上手に絵を描けるとかの勝負じゃいけないものかね?
 ほら、映画であるだろ。この場所かけてバスケで決めようぜ、みたいな」
「近場にバスケットリングねーし」
「・・・そうなの?」
「ああ・・・・・・って、違ぇ!」
 そんな平和的な青春解決法は望んでない。んな仲良しこよしな関係はあっちだって門前払いだろう。
「あいつらに格の違いを分からせてやるんだ。俺のほうが強いってな。
 それだったら拳が一番分かりやすいだろうが」
「ならボクシングでも始めて鬱憤を昇華させればいいのにね。
 年頃の男の子って、やっぱり気持ちが理解できないな」
 そう言いながら口いっぱいに握り飯を頬張った。おい、ギリギリの量だろうが。
「ハムスターみたいだな」
「もんが?」
「お前の姿を今すぐ見せてやりたいよ」
 どういう食べ方をしたのか、鼻の頭にくっついていたご飯粒を取ってやった。

 

 

お題提供 月と戯れる猫

 


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言い逃してしまった言葉 [自作小説]

(4話目/8話)

 

「さて。・・・・・・じゃあ帰ろうか、ついておいで」
「はあ?」
「行く所がないならうちに来ればいい。
 今の時間に外にいるんだから、どうせ親と喧嘩して帰りづらいとか青臭い悩みがあるんだろう?」
「青くて悪かったな。親父と顔合わせたくねーんだよ」
「そうかい、じゃあおいで」
 ほら、と女は手を差し出した。
 子ども扱いすんじゃねえと無視したが、にこにこと笑ったままで、そこがまた癪に障る。
 けれどどこかくすぐったい気持ちが渦巻いていて、結局言葉にならなくてずっと黙っているしかなかった。


 辿りついた玄関。鍵を開けた扉の奥は暗い。
 まだ住人が帰っていないのならともかく、この時間帯と様子ではコイツのみがここの住人なのだろう。
 ということは。つまり、ともかく。
「ちょ、ちょっと待て。こら、お前」
「んん?」
「お前一人暮らしなのか?」
「そうだよ? 何か問題でも? ああ、大丈夫。
 ベッドの他に、一組布団があるんだ。ちゃんと眠れるから、安心していいよ」
「それはよかった・・・じゃねえ、そういう問題か! お前一応女だろ!?
 男を、しかも初対面で夜遅く、部屋に連れ込むなんて安心していいわけねーだろが!」
 女はああ、と気づいたように漏らした。今更か!
「・・・・・・襲わないよ?」
「違ーう! お前が! むしろお前が心配しろっ、身の危険を感じろ!」
「そういう意味か。襲いたいのか?」
「・・・んなわけねえっつの」
 何だか、疲れた。どっと疲れた。
 頭を抱えた俺を横目で見ると、大丈夫、いい案がある。
 そう言って、さっさと暗い部屋に入っていくものだから、
 調子が狂いっぱなしの俺は阿呆のように後をついていくのだった。


「・・・おい。だからなんだこれは」
「何だい? ああ、やっぱりベッドの方がよかったかな?」
「だからお前は危機感を持て! 俺が布団を使うのは当たり前だが、何でベッドの傍に敷くんだよ?
 危なさすぎだろうがっ」
 やれやれ、と女は溜息をついた。
「心配性だな。近くで見張っておけば何にも悪さをしないかなという最善策のつもりだったんだけど。
 ・・・・・・これまでの言動を思うに君は、思ったより良い子なんじゃないのか? 所謂、悪ぶりたい良い子」
「うっせえ」
 ふう、と女は考え込む。
「ならこうしよう」
 棚から何かをごそごそと取り出し、両手を出して、と言われる。
 素直に手を出せば、あっという間にロープがぐるぐると巻かれていった。
「これで、よし。縛ってしまえば安心だろう? ああ、端っこは私が持っておくよ。
 朝トイレに行く時、紐を引っ張ってくれれば目も覚めるだろう。その時に外してあげる」
 文句無いだろう? と女は若干胸を張った。
 どこか穴があるような気はしたが、俺も何だか眠気が襲ってきていたのでどうにも反論する気力さえない。
 何しろ今日は一日中、例の奴らと追いかけっこをしていたのだ。
 俺ががくんと頷くと、女はよしっと小さくガッツポーズを取りながら、小ぶりの電気スタンドを消す。

「お休み。・・・そういえば自己紹介がまだだったね。私は碓井智美だ。よろしく」
「・・・・・・滝本総一」
「お休み、総一君」
 言い終わるや否や、手首への僅かな圧迫感が消えた。同時にくうくうと微かに寝息が聞こえてくる。
 手前、眠って紐を離しやがったな?
「・・・・・・良い子でよかったな。んっとに、危機感が無さすぎるんだよ」
 毒気を抜かれてしまった俺も、やがて忍び寄ってくる睡魔に身をゆだねた。
 若干傷が痛むも、久しぶりの心地よい眠りだった。

 

 

お題提供 月と戯れる猫

 


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